Sunday, May 19, 2019

Visit Shenzhen! 深セン視察(2019年04月)Part 05-モノ作りの拠点

Shenzhen as The Center of Manufacturing!


Shenzhen as The Center of Manufacturing
モノ作りの拠点


2019年04月の深セン(深圳)の視察旅行の記事第5弾です。

昨今、深センは、ハードウェアのシリコンバレー中国のシリコンバレーなどと呼ばれることが多いようです。そんな深センの「シリコンバレー」としての特徴を見てきました。

ここではまず、ハードウェアのシリコンバレーとしての深センについて執筆致しました。


シリコンバレーとは?


本家、米国のシリコンバレーという名前は、ニュースなどでも頻繁に出てきます。

私は電気電子技術を元々専門としておりますが、私のようなエレクトロニクスに関わる全ての人間にとって、まさに憧れの地のはずです。ヒューレット・パッカード(HP、Hewlett Packard)、フェアチャイルド・セミコンダクター(Fairchild Semiconductor)、インテル(Intel)など、数々の世界をリードするエレクトロニクス企業が隆盛した場所です。

私は、大学院に進んでから、シリコン技術(=半導体デバイス)の基本的な教科書である「Physics and Technology of Semiconductor Devices」という本を、原書で何度も何度も読みました。初版は1967年と今から50年以上も昔で、執筆されたのはアンドルー・グローヴ(Andrew Grove)という方でした。現在のあらゆる産業の基礎となっている半導体デバイスの教科書の基礎です。

驚いたことに、実は、この教科書を執筆されたアンディ・グローヴ(Andrew Grove)は、2016年に逝去されたインテルの元CEOだったのです。現在、ここインドネシアでも、この著書は手元に置いてあります。そして、前の学期に現在勤務しているBINUS大学というインドネシアの私立大学で電子デバイス(Electronic Devices)の講義を担当したときにも、学生たちにこの教科書を薦めました。


Physics and Technology of Semiconductor Devices, by Andrew Grove
いつも手元にある『半導体デバイスの基礎』(アンディ・グローヴ)

当時、大学院生だった私は、このように永遠に語り継がれるような半導体の基本的な教科書を書けるような技術者・研究者が、インテルのCEOだと知り衝撃を受けました。

インテル(Intel)のCEOが、半導体デバイスの基本中の基本の教科書を書いた・・・。

半導体デバイスの基本中の基本の教科書を書いた人が、インテル(Intel)のCEO・・・。

そこで、このような方がCEOになれるインテルとは一体どのような会社なのだろうか、とインテルという会社そのものや、著者の故・アンドルー・グローヴの生きざまそのものにも興味を持ちました。そこから、結果的にシリコンバレーという創造的な土地の存在に触れ、感銘を受けたことも、まだ強く覚えております。


現在のシリコンバレーは、と言えば、ご存知のようにインテル(Intel)やアップル(Apple)、テスラ・モーターズ(Tesla Motors)のようなハードウェアを作る企業だけではなく、グーグル(Google)やフェイスブック(Facebook)などのIT技術に軸を置く企業も多くなっています。つまり、ハードウェア・モノ作りだけではなく、ソフトウェアも統合した、世界で最も創造性に富んだオープンイノベーションを目指した拠点となっているのです。


深セン(深圳)は、シリコンバレー?


そして、ここ、中国の深センです。最近の技術動向を見ていると、深センの名前をよく見かけます。様々な記事などで、ハードウェアのシリコンバレー、中国のシリコンバレーなどと呼ばれ、その隆盛が語られています。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

Wikipediaで「深セン市」と調べると、以下のように書かれております。

深センの特徴は、経済特区という地の利を活かした中国のハイテク企業の本社所在地としての役割にある。ファーウェイ、テンセント、BYD、ZTE、DJI、OnePlusなど、著名な中国企業が本社を構える。また、世界最大の電子機器受託生産(EMS)企業になったフォックスコンは、市内に最初の製造拠点を設けたことで知られる。 
(Wikipedia「深セン市」より抜粋、2019年05月19日) 

深センと言えば、やはり有名なのは、外国企業の下請け製造拠点という側面でしょう。特に、ハイテク分野でのモノ作りという点で、ここ中国の深センが、世界的に注目を集め、世界中の企業の製造拠点となってきたのです。昨今では、中国での人件費の高騰に伴い、タイやベトナム、マレーシア、そしてここインドネシアなどへと製造の拠点の一部の移転が進んでいます。しかし、元々は海外への生産の移転の始まりは中国でしたし、現在の中国の技術力の高さは半端ではありません。

そのようなハイテク企業の下請けとして、モノを作るノウハウを蓄えていったことが、ハードウェアのシリコンバレーと呼ばれる所以なのでしょう。


深セン(深圳)は、ハードウェアのシリコンバレー?


そのようなハードウェアのシリコンバレーとして知られている深センにある、電気街の中心地である華強北(华强北)を視察して参りました。

日本の電気街・エレクトロニクスの中心地というと秋葉原を思い浮かべますが、規模が全然違いました。ヨドバシAkibaのような巨大なビルが数十棟というレベルで乱立しており、その中が全てエレクトロニクスのお店となっているのです。


華強北のメインストリートの風景を載せて参ります。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

非常に空間の広いメインストリートに沿って、巨大なビルがたくさん建ち並んでいます。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

この乱立するビルの中が全てエレクトロニクスのお店・・・。日本にはこのようなところはありません。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

このヨドバシAkibaのような巨大なビルの中が、全てエレクトロニクスのお店です。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

興奮のあまり自撮り!(自撮りばかりでごめんなさい・・・笑)


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

巨大なエレクトロニクスモールの中です。抵抗、コンデンサ、マイコン、LEDといった様々な電子部品から、カメラやロボットなどの完成品に至るまでいろいろなものが売られていました。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

電子部品が、リールになって売られているのを見た瞬間、感極まって涙が出てきました。ここでの研究・開発の生活は、どのようなものでもすぐに手に入って、きっと幸せなんだろうな、と思わず感じられました。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

ありとあらゆる電子部品が置いてありました。私は中国語がほとんどできないので、お店の人とのコミュニケーションが非常に困難でしたが、見ているだけでもあっという間に時間が過ぎ去っていきました。

現在の東京には、電子部品が扱われている一般向けのお店はほとんどありません。私が学生で、精力的に回路設計などをしていた頃(2005年~2010年)でさえ、必要な部品はオンラインショップで購入し、基板は専門の業者に発注をかけてからかなりの時間とお金をかけて入手し、回路を作っているという状況でした。今はもっと電子部品に触れられる環境が減っているのではないでしょうか。

結果、必要な物を設計通りに作ることはできますが、その工程においてインスピレーションはほとんどなく、創造的なものはなかなかできませんでした。セレンディピティと言われていますが、偶発的な出会いによって生み出される創造的な産物というのは、イノベーションを興す上で大変重要な要素のはずです。また、部品や基板がすぐに届かない場合は、どうしてもそれがボトルネックになってしまい、研究の進捗が遅くなってしまいました。

もし、こういうお店が近くにあったら、間違いなく製作にインスピレーションが得られ、創作意欲も湧き、もっと様々な工夫ができていたと思います。もちろん、思いついたらすぐに部品や基板が入手でき、検証でき、研究や開発の速度が上がるというのも見逃せません。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

日本にもこういうところがないと、技術立国として世界をリードすることはとても目指すことは難しいのではないでしょうか。身近に様々な部品を手に入れられる環境があれば、

「今作っているこの回路、この端子を付ければもっとコンパクトになりそう!」

「このお店に注文すれば、こういう基板も作ってもらえるのか。注文してみよう!」

「この間作った回路、こういう形のパーツがあるなら、こっちの方が良かったかも!」

「こういう基板、いいなあ。今度何かを作るときに使ってみたいなあ。」

というように、モノ作りに携わる人にとってはどんどんインスピレーションが湧いてくるようになると思います。しかし、こういう環境がなければ、既存の物以上のアイデアはなかなか出てきません。

今すぐこういう場が必要なのかと問われれば、短期的には必要ないでしょう。また、今の日本で、このような場を作り、エコシステムを構築することも困難ではないかと思います(ですから、現在こういった場所が皆無なのでしょう・・・)。

しかし、長期的に見たときには、こういう場があるかどうかで、特にモノ作りにおいては、凄まじい差が付いてしまうように感じます。パッと思いついたものを気軽に作れる環境があるかどうか、というのは、このイノベーションが加速していく時代にはとても重要なことではないのでしょうか。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

既製品も、お店ごとに様々な種類、価格帯のものがありました。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

シリコンでできた、巻いて畳むことのできる電子楽器でした。スピーカーに接続することで、非常に良い音になっていました。こういった、インターネットなどでは見たことがある様々な新しいものが、あちらこちらでデモンストレーションされていて、実際に自分で触れることができるのも、華強北の魅力の一つだと思いました。

今後、日本は主要な都市を除いては、Amazonによって商店が駆逐されていく可能性が高いです。そのような時代に、実際に触れる場所を残すことの大切さも考えて行かないと、発想の自由度がなくなり、心の豊かさのようなものもなくなってしまうかもしれません。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

人工知能を扱ったショップでした。中にはカメラやロボットが置いてありました。

メインストリートの裏手にも様々なお店がありました。回路基板なども含めて、仕様を渡して設計・製作してくれるところもたくさんあるようでした。何か思いついたものを非常に早い周期で物にしてフィードバックし、開発の速度を著しく高めていくことができるというように感じられました。


華強北はモノ作りをする人にとっての天国!


正直、電気電子工学を専門とする身として、「学生時代にこういうところで過ごせていたら良かったのに・・・」と、この深センの環境がうらやましいと思いました。

もちろん、深センは中国にありますから、昨今のファーウェイへの輸出禁止の問題に代表されるように、欧米の最先端の部品を輸入できるかどうかは分かりません。しかし、この点を踏まえても、価値があるように感じます。というのは、最先端ではないちょっとした部品の入手や、オーダーでの基板設計などに関しては、非常に早く対応できるはずだからです。

ですので、思いついたものをサッと作って、イメージをプロトタイプに落とし込んで、実際に試すことができるという意味では、新しい物を開発したい人にとっては最高の環境ではないかと思いました。

ハードウェアのシリコンバレーとはよく言ったものです。ハイテク企業の下請け製造拠点の存在と、こういった電子部品がいつでも気軽に手に入れられる環境の組み合わせは、イノベーションを興していく上で必須と言えるでしょう。そもそも、本家、米国のシリコンバレーも、別にIT技術に軸を置く企業だけだというわけではないのです。現在もインテル(Intel)やアップル(Apple)に代表されるように、元々はモノ作りのハードウェアの会社から始まっているのです。



以上のように、今回、華強北を実際に見てきました。

思うところはたくさんありましたが、いずれにせよ、華強北のように電子部品が山積みになっている環境が身の回りにある中国と、こういった環境が全くなく技術が完全にブラックボックス化している日本とで、技術に対する理解度・親和性にどんどん差が出てくるように思います。これが、もしイノベーションを興すスピードに影響してくるのであれば、どこかで是正していかないといけないのではないでしょうか。

これは、技術的な問題ではなく、社会構成やエコシステム構築の問題ですね。どのようにしていけば良いのでしょうか?


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

夜の華強北はライトアップがとてもきれいでした。


Huaqiangbei Electronics Market, Shenzhen
華強北(华强北)の電気街、深セン(深圳)

LEDのお花が咲き乱れているのを見て、これもまた華強北的で、面白いと思いました。


こんなものをサッと作れる環境は、イノベーションを加速する大きな要因の一つですね。



Visit Shenzhen! 深セン視察(2019年04月)まとめ

https://omg-kmg.blogspot.com/2019/05/visit-shenzhen-201904.html